不可触民:その呼称と由縁

不可触民:その呼称と由縁

不可触民について知っている方も多いと思います。インドの新聞を読んでいるとたびたび登場する不可触民。大抵のニュースは悲惨な状況を伝えるものです。

ただ、その呼称にさまざまな言葉があることに「何でだろう?」と思った人も多いのではないでしょうか。

今回の記事では、不可触民を呼ぶときに用いられる呼称の由来を紹介します。

1.不可触民と呼称

浄・不浄の観念が発達したヒンドゥー文化の中で、不可触民はカースト制度の外に置かれ、文化的に忌み嫌われ、不浄とされる薄給の仕事を強いられてきました。

かれらに対する地位向上の運動はインド各地で行われていますが、貧困層も多く、識字率も低く、不浄とされる仕事をさせられるため、偏見のループは消えることはありません。

そのかれらにはいくつかの呼称があります。不可触民、アンタッチャブル、アウトカースト、パーリア、ダリト、ハリジャン、SCなど、日本国内でもさまざまな呼称で不可触民が呼ばれています。さらに、各不可触民カーストの名(チャマール、マハールなど)で呼ばれることもあります。

不可触民は英語で「Untouchable」、ヒンディー語で「アチュート(achut)」です。アウトカーストカースト制度の枠組みの外に置かれたことをさし、この言葉も広く使われています。

2.ダリト

「ダリト(Dalit,ダリット)」という言葉は、サンスクリット語の「dal(引き裂く、壊す)」の過去分詞「Dalita(引き裂かれた、抑圧された)」に由来しています。この言葉は、20世紀前半にインド各地で起こった不可触民をはじめとする被差別民解放運動の中で、不可触民をさす言葉として定着していきました。

この「ダリト」という言葉は不可触民による自称であり、英語の「不可触民(Untouchables)」やこのあと出る「ハリジャン(Harijan)」とは異なる位置づけをされています。このあと紹介する行政用語のSCを除くと、現在不可触民をさす言葉として最も使われているのではないでしょうか。

この言葉は不可触民出身の偉人、アンベードカル(Ambedkar、1891-1956)によって用いられたことが契機で広まりました。アンベードカルカースト制度を否定し、カースト制度の存在が被差別民を生んでいるとしています。彼は不可触民の地位向上のため、不可触民を「ダリト」という言葉で表現し運動を進めていきました。

また、彼は憲法起草委員の委員長として『インド共和国憲法』における不可触民に関する規定や、『不可触民制犯罪法』成立に大きな影響を与えています。

3.ハリジャン

「ハリジャン(Harijan)」は「神の子」を意味し、ガンディーによって不可触民をさす言葉として使われました。ガンディーは、不可触民の解放、地位向上がインドの最も重要な課題と捉えています。

彼は、不可触民がカースト制度やヒンドゥー教の教えに反する境遇に置かれていると考え、インドの農村部を精力的に周り、偏見をなくし平等の地位を与えるべく、遊説を重ねました。

また、彼は不可触民の少女を養女とすることで「触れてはいけない存在」ではないのだと示しています。ただ、上記のアンベードカルとの不可触民を巡る対立は大きく、衝突は何度もありました。

ガンディーは「1つのインド」の接着剤としてカースト制度やヒンドゥー教を考え、その枠組みの中で不可触民への偏見を取り除こうとしたといえます。そのため「神の子」と不可触民を呼んだのでした。

  • アンベードカルカースト制度やヒンドゥ―文化の影響が社会に残る限り、不可触民差別は続くと考えました。そのため、カースト制度やヒンドゥー文化を法体系で縛り、影響力を排除することで、不可触民の地位を向上させようとしたのです。不可触民への優遇措置は、アンベードカルにとれば著しく地位が下げられている現状を打開する手段と考えたのです。
  • それに対しガンディーは、ヒンドゥー文化やカースト制度を必要なものと考え、被差別民はイレギュラーなもの、本来はあるはずのないものとしました。「イメージを変えさえすれば地位向上に繋がる」というような、アンベードカルに比べると抽象的な訴えをしたのです。
  • そのためアンベードカルとの議論は平行線で、優遇措置も最低限以下に抑えられてしまったとアンベードカルは考えています。

4.パリア

パリア(Pariah、パーリア)はタミル地方の不可触民カーストの、パライア(Pariah)に由来しています。

この言葉の範囲は広げられていき、インド全域で不可触民全体をさす言葉と認識されるようになりました。この言葉は欧米でも広く認知されています。

5.SC

ニュースなどでSCとの言葉を見たことがある人も多いと思います。SC(指定カースト、Scheduled Caste)は大まかに、不可触民をさすカテゴリーの行政用語です。SCは、インド憲法第341条に基づき、大統領令によって州や地域ごとに指定された不可触民カーストや、そのカーストの中の一部の総称になっています。

SCはニュースなどで日常的に使われていますが、あくまで行政用語であり、社会の実態における不可触民とは異なる範疇の言葉です。同じように大統領令で指定される「ST(指定部族、Scheduled Tribe)」とともに、後進諸階級に選別されています。

独立運動期に、不可触民をはじめとした被差別民は、大きな課題として全インドで認識されました。

そうした背景から、SC・STとして各分野に、それぞれを優遇する席を用意することになりました。国会議員や州議会議員や大学、公務員などの優遇枠が用意され、それを留保(Reservation)制度といい、州ごとにその割合は変わりますが、インド各州において実施されています。

6.不可触民:その呼称と由縁のまとめ

みてきたように、不可触民の呼称にはそれぞれの由来があります。インド憲法によって不可触民制の廃止が記載され、不可触民差別を罰則化する『不可触民差別犯罪法』が成立しましたが、文化として根付いてしまっているため、なかなか改善がされずに今にいたります。

今回紹介した「ダリト」と「ハリジャン」も、カースト制度を否定する不可触民のアンベードカルと、カースト制度やヒンドゥー文化を守るガンディーという構図が背後にあります。私は不可触民に対するガンディーの対応には疑問を持っているので、ハリジャンという言葉は好きではありません。

不可触民問題でアンベードカルとの間に対立が生じると、ガンディーは度々ハンガーストライキを行い、アンベードカルが折れざるを得ない状況を作りました。もちろんガンディー側の考えにも正義があることは承知していますが、被差別民として苦しめられてきた人たちの意見を、もう少し尊重してほしかったと思います。

こうした言葉の意味や由来を考えることが、不可触民問題に興味を持つきっかけの一つになれば幸いです。


  • クリスチャン等はカーストの外になりますが、生まれのカーストに引っ張られる傾向はあるようです。ただ、都市部で周囲にカーストを知られていなければ、当然気にする人もいないはずです。
  • インドではカースト=姓ということが多いですが、結婚して苗字が変わってるのであれば、周囲には話さない限り知られないはずです。
  • 全インドで不可触民カーストは存在します。不可触民カースト内部でも、カーストごとにヒエラルキーがあるので、相互に序列を付け合い、連携をとるのは難しい文化のようです。

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