『マヌ法典』にみるヒンドゥーの罪とそれがもたらすもの

『マヌ法典』にみるヒンドゥーの罪とそれがもたらすもの

マヌ法典』は、ヒンドゥー社会に今なお、強い影響力をもち続けていることは、広く知られています。この『マヌ法典』は、ヒンドゥー教徒の生活・行動規範などを縛るもので、紀元前後の頃に編纂されたものにもかかわらず、現在もヒンドゥー社会に強い影響力をもっています。

そして、ヒンドゥー社会の規範を破ると、すなわち「罪」を犯すとどうなるのか、ということもしるされています。

今回は、ヒンドゥー教における罪と、この『マヌ法典』にみる「罪」がもたらすものをみていきます。

1.ヒンドゥー教における罪ってどんなこと?

ヒンドゥー教において、「浄・不浄」の観念が、極度に発達しているといわれ、人は生活を送るにあたって、自身に見合った清浄性を保つことを求められます。

「浄・不浄」は、すべての行為に付随するものであり、社会・宗教規範を守ることは、浄性を維持することに繋がり、逆に、規範を破ると、不浄性を身にまとうことになります。

そのため、人が不浄性を与え、与えられることは「罪」と考えられます。

また、人が生来もつ浄性は、カーストごとに異なります。

例えば、最も浄性の高いとされるバラモンの司祭と、シュードラの小作農が、その生活で求められる浄性に基づく規範は、異なります。―社会では、それぞれのカーストが、自身に見合った規範を実践することで、各自の浄性を維持します。それが、社会・コミュニティの維持に、繋がるということです。

このヒエラルキーと浄性の関係は、上位カーストが下位カーストを「穢れた存在」と見なす理由となっています。そうした理由付けをする規範を定めたものを「(ダルマ・シャーストラ)」といいます。

この相互を縛る「浄・不浄」の観念を基にした社会規範は、ヒンドゥー社会を古代から継続させてきました。

ヒンドゥー社会において、罪と不浄性(穢れ)は同一視されてきたと考えられています。生理的な体液(血、精液、糞尿、汗、唾液など)、死や誕生を発生させる人や動物は、穢れの源と考えられています。この穢れは、実体化すると考えられています。

代表的な例は、異カースト共食の禁止です。食事では、食べ物を口に運ぶ際、唾液が指に付着し、その唾液が付着した指で、再び食べ物を取ります。これは、唾液という穢れが、皿を通して伝染するため、ヒンドゥー社会では、伝統的に嫌われてきた慣習です。下位カーストの穢れが、上位カーストへと伝染すると考えられるということです。

現在においても、この規範は続いており、例えば家で食事をとる時、メイドが同じテーブルで食べることを許さないといったことは、どの家庭でもある光景だと思います。これも、下位カーストメイドとは、同じ食卓で食事をとるということが、罪・不浄であるとの慣習が残っているためです。

こうしたヒンドゥー社会の罪とされる様々な行為は、ヒンドゥーの「法」の中で最高の権威をもつといわれている『マヌ法典』にも記されています。

次の項からは、『マヌ法典』における罪についてみていきましょう。

2.『マヌ法典』による罪を生じる行為

マヌ法典』によると、罪を生じるのは、心、言葉、身体のいずれかの行為によってだとされています。

  • の行為による罪は、他人の財産を欲しがること、悪事を思い描くこと、誤った信仰に心を傾けること、などがあげられています。
  • 言葉の行為による罪は、嘘や中傷、必要のないお喋りなども、罪とされています。
  • 身体の行為による罪は、物を盗む、人や動物に危害を加える、姦通などが、罪とされています。

こうした罪はバラモンの規範に基づいたもので、罪の及ぶ範囲の広さがみてとれます。

心の行為の罪のように、具体的な行為をしなくても、思い描くだけでも罪とされるように、倫理的・道徳的な罪と、実際の犯罪が、同じ罪の中で同列に並べられていることが、興味深く感じます。

3.「罪」がもたらすもの

ヒンドゥー社会で最も恐れられているのは、コミュニティからの追放です。これは、重い「罪」を犯す、または「罪」を重ね続けることで起きます。

軽い追放では、一定期間の贖罪の儀礼を行うことで解除されますが、重いものでは、生涯にわたって追放は続きます。追放されるということは、ヒエラルキー的にいえば、カーストの枠外、不可触民のレベルにまで、落ちるということになります。

また、死後の世界においては、地獄に落ち、下等な動物や不可触民などとして転生をすると考えられています。これは、ヒンドゥーの概念で極めて重要な「」に影響するということです。

正しく輪廻を経るには、「法」に従った生き方をする必要があります。『マヌ法典』での「罪」と、それがもたらす輪廻のをいくつか紹介します。

①バラモン殺し

  • 犬、豚、ロバ、不可触民へと転生
  • 転生後は肺病を患うといわれている

②スラー酒(悪性の酔いをもたらす酒)を飲む者

  • 虫類、蛾、糞を喰う鳥、危険な動物へと転生
  • 飲むと歯黒病になるといわれている

③黄金を盗む者

  • (何千回と)クモ、ヘビ、トカゲ、水棲動物、悪鬼ピシャーチャに転生
  • 悪爪が報いとして現れるといわれている

④師の妻との姦淫をする者

  • (何百回と)草木、肉食獣、牙をもつ獣、残忍な人間へと転生
  • 転生後は皮膚病を患うといわれている

4.『マヌ法典』にみるヒンドゥーの「罪」とそれがもたらすもののまとめ

現在のヒンドゥー社会の宗教・生活の規範に、最も影響を与えているのが『マヌ法典』だといわれています。そして、ヒンドゥー教徒が宗教的に恐れるのが、今回紹介した「」です。

この「罪」は、ヒンドゥー社会を維持するために、古代から効果的に作用し、今も強く影響を残し、差別的との批判を浴びるカースト制度を、強固なものとしてきました。

ヒンドゥー社会の規範は、さまざまな特徴をもっており、多くの人が興味をそそられるのではないでしょうか。また機会があれば、ヒンドゥー社会の特徴の礎となっている『マヌ法典』について、お伝えできればと思います。

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『マヌ法典』には、女の子供を結婚させる父親の義務が、次のように書かれています。
書いてある内容もなかなかハードで、時にはやり過ぎな表現もあり、クスっと笑えるかもしれません。