インドの書本の中の細密画文化

インドの書本の中の細密画文化

インドの町中でよく売られている、ヒンドゥーの神々の絵を見たことがある人も多いと思います。あの神々の絵は、インドの写本の中で描かれた、細密画に由来する絵が、ほとんどだといわれているんです。

今回は、インドの細密画と、その歴史をみていきます。

1.写本の中の細密画

写本とは、手書きで複製された本や文書のことをさし、印刷技術が普及する以前は、写本によって、伝統的な文書などを引き継いできました。

こうした写本の中には、西洋・東洋問わず、美麗な挿絵があり、それを細密画といいます。細密画は、ミニチュアール(minituare:彩画)とも呼ばれています。

こうした写本・細密画は、文化的価値をもつ物も多くあり、木版印刷が普及した以降も、一部、引き継がれています。

ヒンドゥー文化の場合、写本を受け継いできたのはバラモンです。これは、ヒンドゥー聖典に描かれている言葉を、聖なるものと考えたため、バラモンのみが、その言葉・知識を継承できることになったのです。

インドの写本は、神々の神話とともに、その細密画が随所に描かれています。

2.インドの写本の中の細密画

インドにおける写本は、一般的に、貝葉(ヤシなどの植物の葉を加工して、紙の代わりに用いられた)や樹皮に、横長に筆写し、板で挟んで、糸を通してまとめる形で作られています。

この筆写された貝葉を挟む板、そして、筆写した本文の区切り(章の終わりなど)に、文様(もんよう)を描いたのが、インドの細密画の起こりだといいます。

インドには様々な宗教があり、写本も、それぞれの信仰に基づき、描かれています。

以下、主な宗教の写本と、その中の細密画についてみてみます。

2-1.仏教の写本と細密画

現存している、本格的な細密画が描かれている写本で、最も古いものとしては、仏教のものがあります。

ベンガル地方の、10世紀当時の王朝(パーラ朝)期に描かれた写本は、貝葉に、仏教の経典や仏伝図(ぶつでんず:仏陀の産まれる直前から、涅槃に至った直後までの、功績を記したもの)、仏教における神格が、筆写されています。

この時代の写本は、紙が普及する以前のために、縦横6㎝前後と小さく、中で描かれている細密画は、古典的な絵柄で、挿絵の数は少なめとなっています。

この写本以降、ベンガル周辺やネパールでも、仏教関連の写本は制作されますが、こうした仏教関連の写本は、イスラムの侵入・影響力の拡大とともに、13世紀初頭に、終わりを迎えます。

2-2.ジャイナ教の写本と細密画

に関する写本は、2大宗派と呼ばれる白衣派(びゃくえは)と空衣派(くうえは)の2種類があり、白衣派は11世紀半ばから、空衣派は12世紀初頭から、写本を作り始めました。細密画が現れたのは、13世紀後半になってからだといいます。

両宗派、それぞれの信仰に基づく、写本が作られています。

(参考動画:写本は43:30頃から)

この時期に、の技術の導入によって、貝葉から素材は変化していきます。紙の導入によって、従来の貝葉と異なり、描くことのできる面積は、大幅に拡大していきます。

これにより、従来よりも、細密画が普及していくことになります。

2-3.ヒンドゥー教の写本と細密画

15世紀中葉から、世俗の文学が盛んになったこともあり、ヒンドゥーの写本にも、細密画が描かれるようになります。

この時期のヒンドゥーの細密画は、イスラムの影響下にあったこともあり、イスラム絵画の影響を強く受けているため、細密画を含む、インド絵画の転換期であったといわれています。

この時期、神の絵は、伝統的な宗教儀礼に用いるものとともに、個人の観賞用という性格も、もち始めました。

イスラム王朝下において、インド独特な、横長の写本とは異なる、縦長のペルシア語の写本が作られており、イスラムの様式や技法が確認できます。こうしたイスラムの影響をみせる写本は、「西部インド様式」の写本といわれています。

西部インド様式の写本は、各地で発展していき、構図等、より自由な細密画が、写本の中に描かれるようになりました。こうして、インドの細密画文化は、16世紀頃に、全盛期を迎えたといわれています。

現代にも伝わっている、ヒンドゥーの神々の絵は、こうした写本の中で描かれ、受け継がれています。例えば、有名なクリシュナ神の子供時代の絵の多くは、『バガバット・プラーナ』の写本の中で描かれた絵に、由来します。

2-4.イスラム教の写本と細密画

ヒンドゥーの細密画文化が全盛期を迎えたころ、ムガル帝国が、イラン画家を指導者として、多くのインド人画家を擁する、大きな工房が作られます。

ここでは、ペルシア語の写本が作られ、その中の細密画は、インドとイスラムの様式が融合したもので、新たな芸術が確立していったと考えられています。

ムガル帝国が、最も安定していた時代といわれる、ジャハーンギール帝期は、精緻で現実的な描写が流行し、肖像画から動植物画、風俗画など、多岐にわたる細密画が、写本の中に描かれています。

こうした、ムガル帝国主導の芸術文化は、19世紀まで続きます。

また、従来の絵画鑑賞は、王侯貴族の特権でしたが、16世紀の終わりころからは、民間様式も登場し、地方ごとに彩られていきました。

写本の民間様式で有名なものとしては、デカニー(Deccani)があります。

これは、ハイデラバードを中心に広まった絵画のスタイルで、独特の構図をみることができます。

3.インドの細密画のまとめ

インドでよく見る神々は、写本の伝統の中で、受け継がれてきたようです。コミカルなものから血なまぐさいものまで、様々な神の絵があり、それらも、こうした写本・細密画文化の中で、人々の信仰と、神のイメージが結びついてきたといえます。

絵と、地域の写本・細密画の結びつきや特性を調べることは、さすがに難しいですが、インド神話を、もう一度みてみたいという気持ちにはなりました。

また機会があれば、インドの芸術文化を紹介してみたいと思います。

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