ヒンドゥーの生活を縛る「法」と最高権威『マヌ法典』

ヒンドゥーの生活を縛る「法」と最高権威『マヌ法典』

ヒンドゥー教は、信仰と生活実践を一体化している宗教だといえます。それは、カースト制度に代表される社会制度と、極度に発達しているといわれる浄・不浄の観念に象徴される倫理・道徳、そして宗教・社会規範を構成する「」に基づいています。

そのため、ヒンドゥー教は宗教社会を形成しています。

今回は、ヒンドゥーの社会規範を形成するといわれている「法」について、特にその最高権威といわれる『マヌ法典』について紹介します。

1.ヒンドゥーの社会を縛る「法」

ダルマはヒンドゥーの規範・法を意味し、そうした規範を定めたインドの古典法の総称をダルマ・シャーストラといいます。

ダルマ・シャートラは、BC6世紀頃から19世紀半ばまで、2500年以上にわたって、途絶えることなく書き続けられ、ヒンドゥー教徒の規範として、生活を縛ってきました。

時代区分ごとの名称があります。BC6-BC2世紀頃の法典は「ダルマ・スートラ」、BC2-AD5、6世紀頃は「スムリティ」、7-8世紀頃は「注釈書」、12世紀以降は「ダルマ・ニバンダ」と呼ばれています。この法典は、地域や宗派ごと、様々なものが時代ごとに、編纂されてきました。

BC1500年頃、インドに侵入してきたアーリア人は、バラモンを中心とした祭式の文化をインドにもたらします。アーリア人は、かれらの価値基準に見合った行動規範の確立を目指し、BC6-BC2世紀頃にかけて、様々な古典法を編纂していきました。そうした文献を通じて、徐々に体系化が進み、社会体制、価値体系、行動規範が総括されたのが、紀元前後に編纂された『マヌ法典』です。

この『マヌ法典』は、現在においても、最も権威のあるヒンドゥー法典と考えられており、強い影響力をもち続けています。

2.マヌ法典

ダルマ・シャーストラの長い歴史と膨大な文献の中で、『マヌ法典』の地位は際立ったものであり、ダルマ・スートラの時期に積み重ねられた法典の総括は、その後のヒンドゥーの世界において、決定的な役割を果たしたといわれています。

『マヌ法典』に続いて編纂された『ヤージュニャヴァルキヤ法典』も絶大な地位を示していますが、それは『マヌ法典』の贅肉を削ぎ落し、洗練されたものとして位置づけられています。『ヤージュニャヴァルキヤ法典』は『マヌ法典』を基盤としているため、『マヌ法典』以上の価値は認められませんでした。

『マヌ法典』への評価は時代を経て、現在においても変わらず、インドの社会体制や人々の価値観、生活の深層まで、影響を与えているといえます。また、インドはもとより、東南アジアにまで大きな影響を及ぼしていることが、多くの研究者によって指摘されています。

『マヌ法典』は、全12章、1342の2行詩から成り立っており、原題は『マーナヴァ・ダルマシャーストラ(Manavadharmasastra、人類の始祖マヌに発するダルマに関する教えの意)』、または『・スムリティ(Manusmriti、人類の始祖マヌの伝承の意)といいます。「法典」と訳されるのは、ダルマ=法と訳されるためですが、現代社会の法典と異なることは、『マヌ法典』の本文に目を通すとわかります。

『マヌ法典』は、当時の支配層であるバラモンとクシャトリヤ(王侯)、特にバラモンの、生涯守るべき生活規範が書かれ、その位置を決定づけています。

以下、『マヌ法典』の章立てを見てみます(渡瀬信之著『マヌ法典』中公新書 1990年参照)。

  • 第1章 世界の創造
  • 第2章 ダルマの源・受胎から幼児時代(受胎式、生誕式、命名式、外出式、お食い初め式、剃髪式と続く通過儀礼サンスカーラ)・学生・修行期の行動の準則(弟子の師に対する奉仕、作法の習得、ヴェーダの学習、修行期を終えるに際しての沐浴)
  • 第3章 婚姻および婚姻形式の選択
  • 第3-5章 家長期の行動準則(日々の5大祭、祖霊祭、生計手段、修行期を終えた者の特殊な生活法、飲食の可・不可)、死および生誕に伴う汚れと清め、器物の清め、女の生き方)
  • 第6章 老後期の準則(林住生活、遍歴生活、息子に扶養される生活)
  • 第7-9章 の行動の準則(王の創造、刑罰の創造、王の職務、裁判)
  • 第9章 ヴァイシャの生業・シュードラの生業
  • 第10章 混血集団と特有の職業・窮迫時の生活法
  • 第11章 罪と贖罪
  • 第12章 輪廻および真の至福をもたらす行為

章立てのみの紹介となりましたが、みてわかるように『マヌ法典』は、カースト制度とアーシュラマと呼ばれる四住期(ここでは幼児期・学生期・家長期・老後期ですが学生期、家住期、林住期、遊住期とされることが多い)を核としています。

バラモンの特権的地位が強調されており、カーストの差別も随所に記されています。これは、支配層と支配されるものを区別することで、支配層の利益・権益の確立と維持が、目的といわれています。

『マヌ法典』の中で、王は法を作るものではなく、法を保護し、それに従い、政治を行うべきと規定されています。これは、バラモンが作った法に、王が従うべきというもので、カースト制度のヒエラルキーに従ったものといえます。

また、ここに記されている刑罰の規定は、実際の裁判の判例といわれており、それを基準としているということです。

3.ヒンドゥーの生活を縛る「法」と最高権威『マヌ法典』のまとめ

『マヌ法典』の影響力は、インド全域に及び、現在のヒンドゥーの生活の隅々まで、及んでいると考えられています。

『マヌ法典』に記されていることは、カースト制度や宗教規範を守る基礎となり、日常生活を縛るものとなっています。

『マヌ法典』には、刑罰の規定なども記されており、現在も起きる上位カーストによる下位カーストへの差別に、通じるものがあるといえます。次回の記事では、『マヌ法典』に記されている、差別的刑罰を紹介してみたいと思います。

BlogMuraFC2BlogRanking

VISITORS HERE:2,824, HOLI GREEN TOTAL VIEWS : 931,294

Previous(down)/ Next(up)
書いてある内容もなかなかハードで、時にはやり過ぎな表現もあり、クスっと笑えるかもしれません。
ヒンドゥー教における「罪」とは、不浄性に侵されることと考えられています。