インドの呪術と憑依

インドの呪術と憑依

インドには様々な宗教、宗派、哲学があり、それぞれ難解な理論が複雑に絡み合い、構築されているといわれます。

その一方で、インドには古代から続く呪術があります。呪術は、儀式で神々に生贄を捧げ、豊穣を祈るなどのイメージがあるのではないでしょうか。実際に、首狩り族として有名なナガ族も、刈った人の首を神に捧げて、豊穣を祈ったといいます。

今回は、インドで伝統的に信仰されてきた呪術とは、どういったものだったのかをみていきます。

1.ヒンドゥー古典の中の呪術

呪術とは、『ブリタニカ国際大百科事典』によると、神をはじめとした超自然的な力を借りて、様々な現象を起こさせようとする、信仰の体系です。

インドの呪術に関する最古の遺物は、インダス文明の遺跡から出土した、儀式に用いられたとみられる護符などです。インダス文明は、文字をはじめ、解明されていないことが多いですが、儀式に用いられたものと推測されています。

BC1500-BC1000年頃に編纂された、ヒンドゥー最古の聖典、4つのヴェーダの1つ『アタルヴァ・ヴェーダ』は、呪詞の集大成といわれています。この聖典の中で述べられている言葉は、ブラフマン(ヒンドゥー最高神、宇宙の原理)の言葉といわれ、「呪力」や「霊力」を持つと考えられてきました。

アタルヴァ・ヴェーダでは、様々な呪法が書かれています。

  1. 悪魔や悪霊、呪をかけるものに対抗するための呪法
  2. 恋敵を呪う、夫の愛人を呪うなど、男女の色恋に関する呪法
  3. 商売繁盛、家の繁栄、豊作祈願、害虫・害獣駆逐の呪法
  4. 病気を治すため、長寿を祈るための呪法

④の病気に関する呪法は、呪術という側面だけでなく、実際の治療法として、様々な薬草の調合法や、人体の構造なども書かれており、世界最古の医学書の側面もあるということです。

こうした呪法は、民間信仰に影響を与え、呪術としてインド社会に息づいていくことになります。

2.民間信仰と呪術

インドの民衆の間で、子供が病気にかかることは、悪鬼(女鬼)の仕業によるものと信じられてきました。サンスクリット文献の『クマーラ・タントラ(Kumara Tantra)』では、こうした病にかかわる、民間信仰・呪術を網羅しています。

クマーラ・タントラには、病気を引き起こす悪鬼の名前をリスト化し、それぞれの悪鬼が引き起こす病気と、各病に対する呪術的療法(『アタルヴァ・ヴェーダ』同様、ハーブなどを用いた治療法と、儀式などを併用する)が具体的に書かれており、クマーラ・タントラは様々な言語に翻訳され、アジア各国に伝わっています。

この『クマーラ・タントラ』は、呪術的治療の重要性や、地域を超えた治療法の拡がりを教えてくれる文献として、知られています。また、呪術で用いられるハーブなどを用いる、自然由来の治療法は、世界3大伝統医術「アーユルヴェーダ」に取り入れられ、広まっています。

3.呪術と憑依

インドでは伝統的に、森羅万象に神々が宿り、様々な事象(豊作や不作、害獣被害、自然災害、病気や健康など)に神の影響があると、信仰されています。

例えば、山は土砂崩れ、山火事、害獣被害、食物、水など、様々な富と災害を人々に与えるため、神々が山に「憑依」していると考えられており、山自体が信仰の対象になっています。

ヒマラヤやカラコルムのような、世界的な山脈のみならず、名もないような山ですら、人々は神を「憑依」させ、崇拝するために、神社を頂に建立することがあります。これは、神に敬意を表し、暮らしを豊かなものにし、災害を防いでもらおうとする信仰のためです。

例えば、虎が村を襲えば、悪鬼が虎に「憑依」したと考え、悪鬼を退治、追い出すために、呪術の儀式(生贄や呪文を捧げるなど)が行われます。この呪術を行う祭司にも、悪鬼に対抗する神が「憑依」し、戦う術を教えるとの信仰があります。

他にも、人に病気を与える悪鬼がいるのに対し、その治療法を考え、実践する医者にも神が「憑依」し、神の力によって病気から救うとの信仰などもあるようです。こうした、神の力を人に「憑依」させるのも、呪術の力というようです。

病気を村にもたらす神と、村を守る神が、同じ場合もあります。

例えば、南インドの女神マーリヤンマン(Mariyanman)は、天然痘を引き起こす神であると同時に、村人を守る神という性格があります。こうした事例は、全インドでみることができます。マーリヤンマンだと、神の望む呪術、生贄を捧げ、信仰を怠らなければ、村人は平和に過ごすことができるが、そうでなければ罰として、天然痘を流行させるということなのでしょう。

こうしたローカルな神々は、地域ごとに、呪術の作法など、多様な形をみせますが、神の名前などは違っても、信仰や呪術を捧げることにより、人びとに幸せをもたらすという共通性は見出せます。

自然に宿るような土着の神々は、ヒンドゥー教が広まる以前から、信仰されていたものが多いといわれています。この土着の神々は、肌が黒いといった特性や、血を好むといった特性をもつことが多いのも特徴です。肌が黒いということは、インドの先住民を表し、血を好むということは、呪術信仰や好戦性を表しているようです。

こうした土着の神から、ヒンドゥーに取り込まれた有名なものとして、シヴァ神の妻である女神カーリーなどがいます。土着で人気の神を、ヒンドゥーで人気の神の妻にしてしまうという、懐の深さ、柔軟性は、ヒンドゥーという宗教の特徴です。

4.インドの呪術と憑依のまとめ

インドの呪術は、もっと黒魔術的な怪しいものがあるのかと、偏見で思っていましたが、アーユルヴェーダ医術に影響を与えた面もあるなど、実際はなかなか意義深いものです

日本にも呪術はあったので、インドとの共通点を考えるのも面白かもしれません。インド呪術の面白いエピソードを見つけたら、また紹介させていただこうと思います。

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