『マヌ法典』にみるヒンドゥー教の女性差別

『マヌ法典』にみるヒンドゥー教の女性差別

インド社会における女性問題は、しばしば国際社会の関心を引いています。インドには、かなり強い家父長制度が現在も残っており、口には出しませんが、妻は夫に従属するのがあるべき姿、といったような宗教・文化規範です。

結婚も、女性が男性の家に「入れてもらう」という価値観を基に行われています。そのため、有名な「(持参金)」などの悪習が発生したということです。

今回は、女性差別の原点(?)ともいうべき、ヒンドゥーの価値観を形成したといわれている『マヌ法典』での、女性についての記述を紹介します。びっくりするような言葉が、たくさん出てきます。

1.『マヌ法典』における女性への差別的言葉

マヌ法典』における、女性への蔑視がみられる記述を紹介していきます。なお『マヌ法典』は、『マヌの法典』(田辺繁子訳、岩波文庫、1953年)を引用・参考にしています。

  • 「この世において、男を堕落させるのは女の天性である。だから賢者は女に対して心を許すことはない」2(章)ー69
  • 「女はこの世において、どのように注意深く監視されても、男に対する欲情と浮気心と生来の薄情ゆえに、夫に対して不貞をはたらく」9-15

女性に心を許すと堕落し、その結果、ヒンドゥーの教えに背くことになるということなのでしょう。これは、「男」と「女」を入れ替える方がしっくりくるんじゃないかと思いますが、これはこれで差別的といわれるかもしれないので、控えておきます。

ただ、『マヌ法典』では、女性を一方的に「堕落」の源とし、女性の男性への従属を強制しています。

  • 「少女、若い女、老女を問わず、女は何事も自分で決めて行ってはならない家事においても同様である」5-147
  • 「女は幼いときは父に、若い時には夫に、夫の死後は子供に従わなければならない。女は決して独立することはできない」5-148

ジェンダー問題に世界が敏感になっているなか、この『マヌ法典』の記述には唖然としてしまいます。インドでDVの被害が多いというのも、納得の内容です。

まだまだ、女性への差別的言葉は続きます。ちなみに、造物主であるマヌ(神)は自身の身体を半分に切ることで、男と女を作ったとしており、その記述が以下のものです。

  • 「創造するとき、マヌは女性に寝ること、座席と装飾への愛着、男に対する性愛の欲望、怒り、悪意、そして悪行を与えた」9-17

男にはネガティブなものは与えずに、女にだけ与えたということなのでしょう。マヌは造物主なら、対等の存在にすべきではないの?と思ってしまいます。

次の項では、さらに女性への差別的な言葉がみられる「結婚」に関する記述を紹介します。

2.『マヌ法典』における結婚と女性

  • 「結婚式は女性のための(聖なる浄めの儀式)で、男子の入門式に相当するものである。夫への奉仕は、男子が師の家に居住して学ぶのに相当し、家族への義務を果たすことは、男子が日々聖火を礼拝するのに等しい」2-67

入門式は、バラモン・クシャトリヤ・ヴァイシャの男子が、10歳前後に行う通過儀礼で、重要視されています。

  • 男子はこの儀礼により、ヒンドゥー社会の一員として生きていくことになります。
  • 女子には、その儀式を行う権利が与えられておらず、それに該当するのが結婚式ということです。

ヒンドゥー女性が、社会的に結婚を強制される理由が、ここにあります。

女性は、結婚するまで、ヒンドゥー社会の一員とはみなされないという文化が根付いてしまっているため、結婚して、妻としての「役割」を、例えどんな男性(夫)に対してでも果たさない限り、社会の中で厳しい立場へと置かれることになります。

  • 「女性は男性の容貌を気にせず、年齢にとらわれず、『彼は男性なり』とだけ考えて、美しい男性も醜い男性も享受しなければならない」9-14

これは一見、そこまで差別的には見えないかもしれませんが、後のヒンドゥー聖典などにおける解説をみると、酷いものだということがわかります。「醜い」というのは、容姿のことだけでなく、ヒンドゥー社会の規範に従えないような不道徳・不寛容・倫理のない男性であろうと、妻は夫を神と定め、夫の命令に従う必要があるということです。

紹介したのは、女性の結婚に関する記述の一部ですが、『マヌ法典』が、女性を従属させるために用いられてきたことが、明らかです。ただ、この『マヌ法典』は、多くのヒンドゥー教徒にとり、最も権威をもつ聖典と考えられているため、これを糺すことは困難となっています。

3.『マヌ法典』にみるヒンドゥー教の女性差別のまとめ

みてきたように、『マヌ法典』からは、インド人には怒られるかもしれませんが、ヒンドゥー社会における女性差別の源をみることができます。日本も家父長制の影響があり、女性は生きにくいと、ことあるごとに言われていますが、インドの状況をみると、大分ましだと思ってしまいます。

マヌ法典』は、女性差別のほかにも、カースト差別の原点などもみてとることができる、興味深い古典なんです。書いてある内容もなかなかハードで、時にはやり過ぎな表現もあり、クスっと笑えるかもしれません。

ぜひ、一度読んでみることをお勧めして、今回の記事を〆たいと思います。

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