ヒンドゥーの祭祀と火の儀礼

ヒンドゥーの祭祀と火の儀礼

インドに長く住んでいる方ならば、ヒンドゥーの祭祀(さいし:祭典)の見学をしたことのある人も、いると思います。そうした祭祀でよく使うのが、「」です。私が見学した祭祀でも、火の大小はありましたが、どの宗派でも、火を用いた儀礼が行われていました。

今回は、ヒンドゥーの祭祀と、火の儀礼についてみていきます。

1.ヒンドゥーの祭祀

ヒンドゥー教の祭祀は、一般的に、願望の成就を祈って、マントラ(神に捧げる呪文)を唱え、供物(甘いお菓子生贄など)を神々に捧げる、一連の儀式・儀礼をさします。祭祀は、ヴェーダ時代(BC1500-BC500年頃)から、もしくはそれ以前から、南アジアの文化の中で、中心的な役割を果たしてきました。

各自、役割をもった司祭が、様々な供物賛歌を神々に捧げるという記述は、『』(BC1300-BC1000年頃までに編纂)において、既にみられます。

祭祀には、様々な形がありますが、古代から祭祀が行われる根源的な理由として、世界秩序の維持というものがあります。そうした神への祈りなどを疎(おろそ)かにすると、や災害に襲われる(世界の秩序が乱れる)という信仰が、ヒンドゥー社会に広まっているためです。

逆に、神々に祈りを捧げ、ヒンドゥーの慣習を守り続けることで、豊穣などの恩恵にあずかれるということです。

神と人間を繋ぐために、祭祀はあるとも考えられていますが、祭祀において、神と人間を繋ぐ触媒となっているのが、「」です。

次の項では、火の性質・儀礼についてみてみましょう。

2.火の儀礼

2-1.火の神・

火の儀礼の前に、火の神様、アグニのもつ性質について、説明します。

アグニは、火を神格化した存在で、ヒンドゥー最古の聖典といわれる『リグ・ヴェーダ』において、武神インドラに次いで、多く登場する神となっています。

アグニは、太陽、電光、祭火の形をとって、天空地の3つの世界に現れます。

暗黒を破る光明、不浄を焼く浄化力という性格から信仰を集めましたが、アグニの最も重要な役割は、祭祀における聖火と考えられています。

聖火としてのアグニの役目は、人間と神の間の仲介者・で、祭祀で捧げられた供物を、神の元へと届け、神を祭祀の場所へと連れてくることです。

ヒンドゥーの祭祀では、必ずといっていいほど用いられている「火」には、アグニのこうした役割が投影されています。

2-2.火の儀礼

古来、火の儀礼は、人間の世界と神の世界が交わる手段と考えられていました。供物は、アグニによって、神々に届けられるため、火の中に置かれたといいます。

ヴェーダ時代を経て、ヒンドゥーの様々な理論・哲学が磨かれるうちに、火の儀礼はますます、その価値を高めていきます。

そして次第に、供物を届ける相手が、世界の創造神・破壊神・宇宙の原理、という設定も登場します。これは、神々へ無礼があると、世界の秩序が危うくなり、世界が混沌へと落ちてしまう、という信仰から発展したといわれています。

火の儀礼には、シュラウタ(srauta)とグリヒヤ(grhya)という、2つの形式があります。

シュラウタは、『ヴェーダ聖典』に基づく公的(コミュニティなどにおける)儀礼で、グリヒヤは、家庭の中で行われる儀礼です。

シュラウタは伝統的に、3つの祭火が設置されます。1つは神々への供物の調理などに用いる火、1つは司祭へ供せられる食べ物の調理などに用いる火、1つは捧げものを神々へと届けるための火です。

また、式を取り仕切る司祭も必要となり、儀礼のたびに、祭祀の舞台を作ります。こうした儀礼の祭壇は、一般的に、砂や土、木片などで作られる盛り土で、円形や四角などの形で形成されます。

グリヒヤは、1つの祭火を設置し、家長が自ら儀礼を行い、健康や長寿、男子の誕生、物質的な富を得ることを祈ります。

供物は、調理された簡単な食べ物(家庭によって様々)で、家庭の火で作られ、朝はアグニプラジャーパティ(インドの創造神10人の呼び名)に捧げ、夜はアグニとプラジャーパティ、またはスーリヤ(太陽神)に捧げられます。

グリヒヤでは、新月・満月・春・雨期・秋・男児誕生・子供の通過儀礼など、特別な出来事を祝います。結婚式のように、司祭が儀礼を取り仕切る時でも、この家庭の祭火を用いる際は、家長を中心に、家族によって行われます

火の儀礼は、大まかに、この2つの形で行われています。

  • シュラウタの儀礼は、時代とともに変化をし、地域ごとに様々な形をとり、今では、3つの祭火を用いることは少ないといいます。
  • グリヒヤは現在も、家庭祭祀として、ヒンドゥーの家庭で広く行われ、宗派ごとに、様々な形で信仰されています。

3.ヒンドゥーの祭祀と火の儀礼のまとめ

友人のインド人に頼んで、何度かヒンドゥーの祭祀の場に連れて行ってもらったことがあります。私が行った祭祀はどれも、大きな祭火が焚かれており、火に向かってマントラを唱えていました。アグニに祈祷を捧げることが目的ではなく、アグニの力を借りて、主神に祈りを届ける祭祀のようでした。

インド人の友人の家にホームステイをしていた時は、家庭祭祀で、特別な日になると、祈祷を行う部屋には火が焚かれ、真面目に信仰をしている様子をみることができました。

ヒンドゥーの葬式で、荼毘(だび)にふす際も、火のもつ聖なる力で、不浄性を打ち消すといいます。火は、ヒンドゥーの宗教生活で、一番、密接なものなのかもしれません。

また「火」にまつわるエピソードがあれば、紹介させていただきたいと思います。

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