ダウリー殺人と背景

ダウリー殺人と背景

インドの、女性に対する悪習として有名な(dawry:持参財)に関するニュースを、みたことがある人も多いのではないでしょうか。ダウリーは、女性への様々な抑圧的な慣習の引き金となっていると、世界中から批判を浴びています。

今回は、ダウリーのせいで起きる「殺人」と、その背景をみていきます。

1.ダウリー

ダウリーは、結婚の際に、女性の家から男性の家へ納める持参財(金銭・宝石・車・高級家電など)のことです。この慣習は、女性の籍が夫の家へと移ることから、女性が本来受け取るべき相続分を、男性の家へと譲渡する、という名目です。

しかし、このダウリーの多寡は、女性の価値を表すものとして、伝統的に考えられており、この額(価値)が、男性側の意に添わなければ、新しく妻となる女性が虐待されるケースが、しばしば起きてしまうのです。

また、ダウリーが満足のいくものでなければ、結婚を拒否するということも、インドではよくある話です。

ダウリーは、上位カーストの間、とりわけベンガル地方で発展したといわれています。ベンガル地方では、上位カースト男性が、下位カースト女性と結婚することが多くあり、その際にダウリーが発生しました。下位カーストの家は、上位カーストの家と結婚することで、家の権威が上がると考えられていたことから、ダウリーを払ってでも、結婚をしたかったようです。

また、ベンガル地方では、多妻婚が広く行われており、ダウリー目当てで、多数の妻を娶(めと)る男性も多くいました。その中には、老人が4~5歳の女児と結婚することもあり、女児が大人になる前に、男性が死んでしまうということも社会問題となっていました(インドでは寡婦が、伝統的に忌避される文化があるため)。

また、多妻婚で、妻の面倒を見るのが嫌になり、「不要」な妻を殺してしまう問題も起きていたといいます。多妻婚は、現在、1961年に施行された「ダウリー禁止法」で禁止されていますが、ダウリーは全インド、上下カースト関係なく広まり、今でも法に反して、ダウリーの授与は公然と行われています

男性が強い権威をもつ家父長制が、色濃く残っているインドにおいて、男性側の家にとり、ダウリーは都合のいい慣習なのでしょう。そのため、産まれたばかりの女児を、負担を嫌うために殺す事件は、いまだにインドで確認されています。

2.ダウリー殺人

ダウリー殺人(dowry death)」は、夫の家族が、満足できるダウリーを受け取れなかったことを原因とする、妻として夫の家に入った女性への、虐待の延長にある、殺人・自殺をさします。ニュースでしばしば目にするこの殺人は、ほとんどが、ひどすぎる虐待を受けています。

焼きごてを当てられ肌を焼かれる、夫以外の親族・コミュニティの人間にレイプをさせる、硫酸を顔にかける、燃やされる、など信じられないレベルのものが、毎年、ニュースで見られます。

こうした虐待の果てに、殺してしまう、または自殺に追い込まれてしまうケースが、多々あるのです。ちなみに、ダウリー殺人の死因で、一番多いのは焼死だそうです。

例えば、2015年のデータでは、一年間に7600人以上の女性が、このダウリー殺人で亡くなっています。これは、「事件」になっただけでこの数なので、ほとんどは隠ぺいされて、「ただの死」「事故」として扱われているはずです(同様に、同じ弱者である、不可触民関連の事件も、コミュニティと警察の癒着によって、多くが隠蔽されています)。

また、近年のインドの、急激な人口増加に伴い、ダウリー殺人の数も増加してきています。2000年から2010年にかけて、増加率は15%にもおよび、現在も、大きな社会問題として残っています。

3.なぜダウリー殺人は起こるのか

謝秀麗著『花嫁を焼かないで ー インドの花嫁持参金殺人が問いかけるもの』(明石書店、1990年)で書かれていた、持参金殺人についての、インド人へのインタビューを紹介します。

「なぜダウリー殺人は起こるのか、どうすれば止められるのか」という問いへの、答えです。

①32歳男性、大学講師

  • これは、嫁と姑の問題で、多くの場合は、夫の母親に問題がある(夫とその父が、母に従うため)
  • ダウリーを要求するのは母親であり、それを止めさせるムーブメントが必要

②17歳女性、学生

  • 人間の欲望が引き起こす問題で、夫とその家族が、物欲に駆られて、女性を苦しめている
  • この問題は、重大な社会問題として、危機意識をもつべき

③45歳男性、会社員

  • 嫁と姑は、互いに家の主人になりたがる性質をもつため、一つの家に女性が2人いることが悪い
  • 妻と姑、互いに反目するのは、どこの国にもあること

④20歳女性、学生

  • ダウリー殺人は、男性が女性を、人間としてみていないことに起因する
  • 家畜と同じで、不要になれば殺し、次の一頭がまた新しく、ダウリーをもってやってくる
  • ダウリー殺人をなくすためには、女性への教育を、より進めないといけない

男性と女性の考えの相違から、インド文化をみてとれるのではないでしょうか。

  • 男性の多くは、このダウリー殺人を、嫁姑問題の延長と捉えていることに驚きます。男性側の価値観の問題と感じている人は、少ないようです。知的水準の高いはずの大学講師の男性ですら、こうした考えでは、一般のインド人男性の考えは、より保守的なものとなっているのでしょう。
  • 女性は、自身に直接かかわる問題のため、危機意識をもって、改善すべきインドの社会問題として、認識している人が多いようです。

ただ、女性がいかに教育を受けようと、現状のインド社会は、極めて強い家父長制が残っています。問題が改善される日は、来るのでしょうか。

4.ダウリー殺人と背景のまとめ

インドに長く住んでいる方ならば、インド人の結婚式に行ったことがある人も多いと思います。

私も何度も行ったことがありますが、その中の一つ、あるのインド人の結婚式が、印象的でした(私とは直接関わりのない、私の友人の知り合いの結婚式です)。

その結婚式の会場の入り口の近くには、ダウリーとして、妻の家から贈られた、高級外車高級家電が飾られていました。

そして、インド人の友人と話していると、なんと、その富裕層は、4~5回目の結婚式だといいます。

びっくりして、

「そんなに離婚しているの?」

と聞いてしまいました。

ヒンドゥー社会で、離婚をする人は、滅多にいないためです。

すると、インド人の友人は答えてくれました。

「んーと、みんな、死んじゃったんだよ

と。

ぞっとしました。

そのインド人の友人も、すぐに話題を変えたので、やはり、話してはまずいと思ったのでしょう。実際に何があったのかは知りませんが、私が行ったことのある結婚式の話でした。

インドの女性問題は、このようにハードなものが多くあります。また機会があれば、ダウリー周辺の問題をみてみたいと思います。

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