カースト制度が存続する理由③:自治機能

カースト制度が存続する理由③:自治機能

インド在住の方はニュースでたびたび、農村部のカーストがらみの事件を目にしていると思います。婚前交渉をした女性が、村の人間に制裁される、殺されるといった事件を見たことがある人も多いのではないでしょうか。なぜ現代においても、こうしたカーストが残り事件が起こるのか。

今回の記事では、カーストコミュニティ内部にある自治機能をとりあげます。コミュニティの枠組みや規範、結束に強制力を加え、維持の大きな要因となっているのが自治制度です。

軽い気持ちでヒンドゥーの規範を破り続けるとどうなるか、取り返しのつかないケースもあります。

1.カーストコミュニティの自治機能

カースト(サブカースト、ジャーティ)のメンバーは、結婚や食事など独自の宗教・社会的規範によって結ばれています。そのため、そうした規範に違反したメンバーがでた時や、カースト内部の対立などの問題が起きた時には、それを解決する必要があります。その問題を解決をし、仲介や制裁を決めるのが長老会議(パンチャーヤト)カースト集会です。

カーストの規範破りの場合は、問題の大きさによって罰金をはじめとした制裁が決められています。比較的軽微な問題はカースト集会で解決をし、カースト集会では解決ができない問題、カーストコミュニティ全体としての問題は長老会議が、さらに地域の安定が乱れ、カーストコミュニティ間の衝突などが起こった時には地域の王が介入し、問題の解決を図りました。

カーストの自治ができている限りは、カーストコミュニティ内部で解決を図るということです。

ヒンドゥー法典によると、基本的に地域の王は、このカーストコミュニティの規範を重視し、コミュニティ内部の問題への介入はすべきでないと定められています。こうしたコミュニティの上の統治者の姿勢は、イスラム勢力や、イギリス支配の際も引き継がれていきました。

2.制裁とカーストの追放

規範を守るという事は、ヒンドゥー教徒にとって重要な浄姓の維持を意味し、逆に疎かにすることは、浄性を守れないために不浄と考えられます。カーストグループ・メンバーの浄性・不浄性はグループ全体に影響するため、規範を犯した人への制裁が必要になるということです。

カーストコミュニティ内部で各カーストの規範を守るため、カースト集会や長老会議では、結婚、食事、性交渉、仕事、ヒンドゥー教の信仰、人間関係・礼儀作法、経済的利害なのど問題が取り上げられます。制裁の方法としては、罰金や自身の属するカーストから追放されることがありました。

カーストの追放には、一時的追放と永久追放があります。ともに追放期間中は、自カーストメンバーとの交流の一切が断たれ、他カーストとの間で行われていたやり取り(食堂での食事、物、サービスの売買など)が断たれます。

  • 一時的追放の場合は、贖罪行為や浄化の儀礼をコミュニティに受け入れられると、カーストへの復帰ができました。
  • 永久追放された場合は、贖罪行為や浄化儀礼が受け入れられることはなく、家族から捨てられ、誰からの支援も受けることができない、孤独な生活を強いられることになります。永久追放されると、ヒエラルキーとしては不可触民のレベルにまで落ちることになり、その悲惨な境遇から自殺を選ぶ人も多かったといいます。

追放理由は、一見軽微なものから大きな問題までありますが、この「追放」という罰が各カーストを引き締め、団結をさせ、規範を守ることで、他カーストからの蔑視を防ぎます。追放されるメンバーが続出するカーストは、規範を守ることもできない=不浄な集団としてヒ、エラルキーにも影響してしまいます。

他のカーストとの相対的地位を維持するためには、日本人には細かくみえてしまうような規範の順守の積み重ねが必要となります。

一般的に、低いカーストや狭い限られた範囲のカーストほど、他のカーストとの関係性が薄くなるために、その結びつきは強いといわれています。こうしたことから、自治機能がカーストの固定化、存続の大きな要因となっているといえます。

3.カーストコミュニティ内部の結びつき

カーストコミュニティは、その内部で自治機能をもつ、独立した排他的グループです。重大な罪を犯して、カーストを永久追放されないかぎり、貧富に関係なく、死ぬまでそのカーストを離れることはできません。国のために活動するというより、コミュニティのために活動することが優先される環境です。

カースト制度のもと、個人の生活は仕事から結婚、食事まで、様々な面で規範が強制されており、現代でいう個人主義のような選択の自由は、著しく制限されています。

しかし、カーストの中で伝統的な役割を担うかぎり、最低限の生活は保障され、コミュニティ内部で助けを得ることができます。インドには富めるものが貧しいものに施すという文化があるので、そこにカーストのヒエラルキーの影響は少なく、善意で行われることが多いです。

4.カースト制度が存続する理由③:自治機能のまとめ

今回はカーストコミュニティの自治機能、カースト集会や長老会議が、内部の結束を高める装置として有効に機能してきたことを紹介しました。

最近の流れでは1992年の憲法改定によって、長老会議が明確に自治体として規定されています。都市部においてはカーストコミュニティの影響力は薄くなっていますが、農村部においてはいまだに影響力は強く残っています。

まれに起きてしまう、地方でレイプをされた女性がコミュニティに帰った後に焼き殺されるというのも、姦通の罪を女性が犯したと考えてしまうからなのでしょう。

これは悪い例ですが、貧しい家へはコミュニティの中で施しがされるなど、良い面もあります。こうした束縛と相互依存関係が、コミュニティの結束を高めているといえます。

次回は、カーストコミュニティ内部の関係性で、経済的側面での力関係についてもみてみます。

  • 山崎元一『インド社会と新仏教 アンベードカルの人と思想』刀水書房、1979年
  • 小谷汪之『不可触民カースト制度の歴史』明石書店、1996年
  • 小谷汪之『インドの不可触民 その歴史と現在』明石書店、1997年
  • 小谷汪之『穢れと規範 賤民差別の歴史的文脈』明石書店、1999年
  • M.B.ワング著、山口泰司著『ヒンドゥー教』青土社、1994年

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