カースト制度が存続する理由②:食事規範

カースト制度が存続する理由②:食事規範

インドの食事のマナーについてなど聞いたことがある人も多いと思います。

よく聞くのは、左手はトイレで使う手だから食事で使ったらだめということでしょうか。もう少し詳しい人ならば、料理人はバラモンが多い、ピュアベジの理由なども聞いたことがあるかもしれません。

今回の記事は、ヒンドゥー文化の中で食事の規範がカースト制度を縛っている、存続の一因となっている理由を紹介していきます。

1.食事の規範

インドの食事の規範は、宗教や地域、階層によって異なります。ヒンドゥー教徒の場合、食事の規範に最も大きくかかわってくるのが「浄・」の概念です。この浄・不浄の概念は、清潔・不潔とは関係のない、宗教的なものです。

どのカーストにも当てはまる食事の規範は、一般的に次のものです。

  • 他のカーストのものと食事を一緒にすることを禁止
  • 自身より下位カーストのものから、水や食べ物を受け取ることを禁止

こうした規範は、南インドの方が比較的厳しいといわれており、駅の水売りもバラモンが多いといいます。バラモンなら、全カーストが水を安心して受けとることができるからです。

食べ物に関する規範は、水に関するものより厳しくなっています。特に、誰が調理したのかということが注意されます。料理人にバラモンが多いのも、水売りと同様に、誰でも食べることができるからです。

下位カーストの料理人の出す料理には、かれらの穢れが移ってしまい、それを上位カーストの人が食べると体内に穢れが入ってしまうため、規範から外れると考えられています。そのため、バラモンが料理人をするのです。

次の項から紹介する食事の規範は、保守的な上位カーストほどその傾向が強くみられ、下位カーストの間ではあまり気にされてこなかったといいます。そのため、今回取り上げる食事の規範は、カーストコミュニティ全体において強く守られているといってしまうと、実情には反することになります。

ただ、カーストコミュニティを取り仕切るのは上位カーストであるため、上位カーストが望まない食事の規範を、下位カーストが上位カーストに対して行うことはありません。

2.食事と浄・不浄の概念

食事の規範に大きく関係する浄・不浄の概念とはどういったものなのでしょうか。この浄・不浄の概念は、各カーストの貴賎・優劣を決める際の基準とされ、ヒンドゥー文化においてさまざまな場面でかかわっています

象徴的な存在は不可触民です。かれらは穢れた存在としてカーストコミュニティの外に置かれ、文化的に不浄とされる仕事のみをさせられてきました。不可触民カーストコミュニティの食堂に入ることは決して許されず、身分を隠して入っていることがばれると殺されるということが現在においても起きてしまっています。

不可触民の例は極端ですが、その他食事のマナーにも浄・不浄は関わっていることをみてみましょう。

ヒンドゥー文化において不浄、穢れは、死や産にかかわるもの、糞尿、汗、鼻水など排泄物や体液などから生じると考えられています。食事の際など、不浄なものは食べることで伝染するという宗教観があります。食事の際に不浄として嫌われることは、左手でものを食べることや、唾液が入る可能性があるため、同じ食器を使うことなどです。不浄なものが身体の中に入ることになるため、大変嫌われています。

一度不浄が移ったものは洗っても落ちないという考えのため、使い捨てのバナナの葉の皿や素焼きのコップも浄性を維持するという背景から、好んで使われています。

また、特に上位カーストの間では、不殺生(アヒンサー)の概念も食事の規範にかかわっています。食材として生きた動物を殺すことを「罪」、その際生じる「血」を不浄と考えます。インドの上位カーストに多い菜食主義は、このような宗教観のもとにおこなわれています。

西洋のような動物愛護的な考えは一切なく、あくまで浄・不浄に基づく宗教的な理由からです。そのためインドの菜食主義は不殺生主義ともいわれています。

菜食主義の中にも浄姓の優劣があり、完全菜食主義者(ピュアベジ)は乳製品や卵など、すべての動物由来のものを口に入れず、衣服においても皮革製品は用いません。浄・不浄の概念に基づく厳しい食事・生活の規範が、自身のカーストの浄性を高めると考えられているためです。

こうした考えの菜食主義は、インド各地でみることができます。ただ、こうした慣習の優劣は、本人たち以外はあまり気にしていません。

浄・不浄の観念は社会的に機能して、異なるカーストとの食事を一緒にすることを避けることは、他のカーストとの違いを強くしました。一方では、カーストグループ内部で食事を一緒にすることは、社会的結びつき、結束を強めることになっています。

3.「清潔」な食事をするために

宗教的に「清潔」な食事をとるためにしていたことをまとめてみます。

  • カースト間で食事をとる
  • 食事は自分たちで、または上位カーストが準備をする
  • 不浄なものが口に入ることを嫌う
  • 使い捨てのバナナの葉を皿として、使い捨ての素焼きの容器をコップとして使う
  • カーストの食事に関する規範を守ることで、自身の浄性を維持する

現在都市部では、同カーストでの食事という規範は薄れており、料理人もネパール人があふれています。しかし、家庭ではメイドが料理を手伝うことはありますが、家人と同じテーブルで食事をすることは少なく、離れた場所や床において食べることが一般的です。

主に調理をするのは、妻の仕事です。メイドは序列としても低位となるため、こうした家庭の一コマも、今も残る食事の規範としてみてとれます。

4.カースト制度が存続する理由②:食事規範のまとめ

結婚のように全カーストコミュニティが一つのルールに従って・・・ というものではありませんが、食事に関する規範は同カースト間の結びつきを強め、他カーストとの違いを相互に認識させる役割を果たしてきました。

ただ、現在都市部においてはだいぶその要素は薄くなっており、職場の同僚と食事をし、左手も普通に使っています。聞いても「そんなの誰も気にしないよ」と笑っていました。でもさすがに、小間使いの人とはテーブルをともにすることはないです。

こうした規範が緩くなることは、カーストの規範も緩くなることに繋がるのかな?と思いながら今回の記事を〆たいと思います。

次回の記事はカーストコミュニティの自治機能について触れてみます。

  • 崎元一『インド社会と新仏教 アンベードカルの人と思想』刀水書房、1979年
  • 小谷汪之『不可触民カースト制度の歴史』明石書店、1996年
  • 小谷汪之『インドの不可触民 その歴史と現在』明石書店、1997年
  • 小谷汪之『穢れと規範 賤民差別の歴史的文脈』明石書店、1999年
  • M.B.ワング著、山口泰司著『ヒンドゥー教』青土社、1994年

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