赤面猿:植民地期イギリス人の蔑称

赤面猿:植民地期イギリス人の蔑称

植民地期のイギリス人は、インド人にとっては抑圧者であり、インド文化の外から来た、理解できない存在でした。多くのインド人は、屈辱や恐怖、怒りを感じながらも、生活を維持するために、インド人の搾取に耐えました。

今回は、植民地期当時のインド人が、イギリス人に対して用いていたとされる「赤面猿」という蔑称と、その偏見によって、災害をイギリス人のせいにした状況を、併せてみていきます。

1.赤面猿

植民地期、多くのインド人は、イギリス人のことを「赤面猿」と呼んでいたといいます。もちろん、武力を背景にした支配者であるため、面と向かってこの言葉を投げかけることは、少なかったはずで、陰口として使っていたのでしょう。

19世紀当時の、インド人向けの雑誌に、次のようなことが書かれています。

「今はカリ・ユガ()であり、海の向こうから「赤面猿」が侵入し、覇権を打ち立てた。その結果、バラモンは権威を失ってしまい、生活の資本を失うことを恐れている」

この「赤面猿」は、インド人にとって理解できない言葉を話し、異なる宗教・文化・容貌をもち、武力を背景に抑圧的支配を始めたことへの、反感が表れているといいます。そして、このカリ・ユガの時代に現れた「赤面猿」は、不吉の象徴として、何か災害が起こると、結びつけられることになります。

カリ・ユガの時代は、人々が堕落し、道徳心や信仰心が失われた時代といわれており、その象徴が「赤面猿」ということなのでしょう。

こうした考えに至った大きな理由の1つとして、イギリス人の牛肉食があります。「牛殺し」は「バラモン殺し」とならぶ、ヒンドゥー教の大罪と考えられるため、牛を殺し、さらに食す行為は、多くのインド人にとり、不吉な存在と映ったのです。

次の項では、様々な災害を「赤面猿」のせいだと、インド人が考えた様子をみてみましょう。

2.災害と「赤面猿」

インドには、地域ごとに、土地に由来する神がいることが多く、日常生活や、災害・豊穣などは、いわゆる地母神に結びつけられていました。

地母神は一般的に、地域の人々に、ヒンドゥーのルールに従った生活を求め、怠惰・不道徳・不義理など、ルールを逸脱する人々が現れると、罰を下すとの信仰があります。

罰は、イナゴや干ばつ、川の氾濫、疫病など、様々な災害となって、人々を襲います。そして、イギリス人への宗教・文化的反発から、インド人は災害の際に、「赤面猿」のせいにしたのです。

植民地期当時の雑誌、『Dnyanodaya(知識の向上)』の中に、それは書かれています(小谷『大地の子』p.89)。

  • 例えば、イギリス人の租税調査官が、土地や作物の調査に訪れたことと、偶然重なったイナゴ被害を結びつけ、土地への不当な干渉に、地母神が怒ったと、多くの人々は考えました。
  • 当時の記事の中には、イギリス人がヒンドゥーの大罪である「牛殺し」をして牛肉を食べるから、神が怒ったのだという言説がみられます。

もちろん、イナゴ被害だけでなく、様々な災害は、イギリス支配以前からありましたが、人は、現在の被害を最大化して考えてしまう傾向があるため、この「最悪な被害」は「赤面猿」のせいだ、となったのでしょう。

さらに、「赤面猿」のせいで、災害が頻発するようになった、との言説まで、多く現れました。

インドでは災害が起きると、飢饉に繋がることが多く、植民地期において、数百万人規模の死者を出す飢饉が、しばしば発生していました。

当然、植民地支配以前にも、飢饉の記録は残っており、多くの被害も出ています。ただ、多くの不条理な災害による被害を、誰かのせいにしたかったということもあるのでしょう。異なる文化・宗教・言語をもち、ヒンドゥーの「大罪」を犯す「赤面猿」に結びつけたのは、仕方のないことだったのかもしれません。

3.赤面猿:植民地期イギリス人の蔑称のまとめ

今回紹介した「赤面猿」は、個人的にも、思わず興味を惹きつけられる、イギリス人への蔑称でした。

当時のインドは、植民地支配による、収奪に伴う飢饉もしばしば起き、数万単位の犠牲者の飢饉が、頻繁に起きていました。ひどい時には、1000万の犠牲者が出てたとの記録もあります。そのため、不条理な「赤面猿」の支配への反感・恨みも、相当なものがあったのではないかと推測できます。

イギリス人と、直接戦うことはできなかったため、陰で「赤面猿」といって、息抜きをしていたのかななど思ってしまいますが、もっとドス黒い気持ちもあったのでしょう。こうした気持ちの高まりは、インド大反乱を経て、20世紀に入り、インド独立運動へとむけて、一気に加速していきます。

今回の記事は、「赤面猿」というパワーワードを知ってもらいたかったので、書きました。また、面白いキーワードがあれば、紹介させていただきます。


参考文献:小谷汪之著『大地の子』東京大学出版会、1986年

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